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名古屋高等裁判所 平成11年(ネ)471号 判決

控訴人(原告) X

右訴訟代理人弁護士 堀内節郎

同 角田雅彦

被控訴人(被告) 株式会社メイテック

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 堤淳一

同 林光佑

同 堀龍之

同 石田茂

同 山根尚浩

同 石黒保雄

同 永谷和之

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  (主位的請求)被控訴人の平成九年六月二七日の第二四回定時株主総会における原判決別紙本件株主総会決議事項記載の決議を取り消す。

3  (予備的請求)被控訴人の平成九年六月二七日の第二四回定時株主総会における同別紙本件株主総会決議事項記載の決議が存在しないことを確認する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第二 事実関係」(「事実及び理由」とあるのを訂正する。)欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の当審主張

1  本件取締役会決議の定款及び取締役会規程違反

被控訴人の定款二〇条二項に基づく取締役会規程八条二項は、取締役会の招集通知は書面でなし、右通知には会議の目的事項を記載すべき旨規定している。取締役会規程は会社の有する自治権に基づいて、取締役会が自らの意思で取締役及び取締役会の権限を定めたものである。したがって、本件取締役会の招集通知に議題として記載されていなかったBを代表取締役社長に選任する旨の本件取締役会決議は、定款及び取締役会規程に違反して無効である。

2  不公正な方法による本件取締役会決議の無効

取締役B、A、Cらは、控訴人の代表取締役社長解任を画策し、本件取締役会に不意打ちで右解任の議題を提出し、これを決議させるべく、虚偽の議題を記載した取締役会招集通知を送付して本件取締役会を開催したうえ、取締役Aが突然控訴人の代表取締役社長解任の緊急動議を提出してこれを決議した。これは控訴人ら解任反対派を封じこめる意図をもってした不公正な決議であり無効である。したがって、それに引き続いて行われたBを代表取締役社長に選任する旨の本件取締役会決議も無効である。

3  本件株主総会における取締役選任に関する決議方法の瑕疵

株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下「商法特例法」という。)二一条の三及び大会社の株主総会の招集通知に添付すべき参考書類等に関する規則(以下「参考書類規則」という。)六条によれば、株主総会の議決に株主の意思を正確に反映させるために、取締役の選任に関する議案において複数の候補者が提案されているときの書面投票では、各候補者についてそれぞれ賛否の記載ができるようにすべき旨定められている。本件株主総会でも、書面により議決権を行使した株主の場合は、各取締役候補者ごとに賛否の意見を表明している。これに対して、本件株主総会に出席した株主については、株主修正案に基づく各候補者と会社提案に基づく各候補者に分けたうえ、各一括して投票している。同一の取締役選任の選挙について、書面により議決権を行使した株主と株主総会に出席した株主との間で投票方法が異なっている。これは、株主平等の原則に反するものであって違法である。したがって、本件株主総会における取締役選任に関する決議方法には瑕疵がある。

二  右主張に対する被控訴人の応答

1  控訴人の当審主張1は争う。

2  控訴人の当審主張2は争う。

控訴人は、昭和五五年五月から本件取締役会で解任されるまで一六年間にわたり被控訴人の代表取締役の地位にあったが、その間、被控訴人の取締役会の招集事務は次のように行われてきた。取締役会を担当する事務局が予め代表取締役及び他の取締役から次回取締役会で審議ないし報告を予定する事項を聴取し、これを審議事項及び報告事項として記載した取締役会招集通知を作成し、代表取締役の了解のもとに、右招集通知を開催日の一週間前までに各取締役及び監査役に交付していた。しかしその後も、代表取締役である控訴人及び他の取締役の意見により審議事項及び報告事項が追加、変更、削除されることがしばしばあり、その場合は、最終的に調整された審議事項及び報告事項が記載された、取締役会招集通知と同一形式の書面を取締役会開催の直前に作成し、これを取締役会の各席に配布しておくことが慣例であった。実際に開催された取締役会では、右各席に配布された書面記載の審議事項及び報告事項に基づいて議事が進行されたが、右書面に記載のない事項が提案され報告されることや、右記載された事項が提案されず、あるいは報告されずに終わることもしばしばあった。本件取締役会における審議事項及び報告事項の取り扱いも右慣例に従って行われている。したがって、B、Aらによる意図的な招集通知作成や招集通知の差し替えの事実はない。

本件取締役会の招集通知は、事務局が作成し、代表取締役である控訴人の了解のもとに配布されたものであり、Bら解任賛成派の取締役はこの作成に何らの関与もしていない。また、取締役会招集通知に記載されていた審議事項は、作成時点において審議が予定されていた事項であるから、何ら虚偽にあたらない。更に、本件取締役会は、毎月一回開催されることになっていた平成八年七月度の定例取締役会であるから、特別な審議事項の有無に関わりなく開催されるべきものである。ことさら虚偽の議題を掲げた取締役会招集通知を送付しなくても当然に開催されたのである。したがって、取締役B、Aらが控訴人の解任を画策し、虚偽の議題を記載した取締役会招集通知を送付することによって取締役会の開催を可能にすることを企てたということはない。また、代表取締役解任という議案が高度の緊急性と重要性を有していること、これに反対することが予想される控訴人らの事前の妨害工作を回避する必要性があることに鑑みれば、かかる議案が動議の形式で提案されて審議されたこと、その推進者らが事前の漏洩防止に意を尽くしたことは当然であり、正当でもある。

3  控訴人の当審主張3は争う。

第三当裁判所の判断

当裁判所も控訴人の本訴請求をいずれも棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり改訂、付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の改訂

1  原判決二二頁四行目に「本件取締役決議」とあるのを「本件取締役会決議」と改める。

2  同二九頁一一行目に「第七号議案」とあるのを「第七、第八号議案」と改める。

3  同三〇頁五行目の冒頭から三二頁三行目の末尾までを次のとおり改める。

「ところで、株主総会における議案の取扱いについては、法令又は定款に違反しない限り、株主総会の決議に基づいて自主的に議案の審議、採決方法を決定することができると解すべきであって、この理は取締役選任に関する議案であっても同様であると解される。

これを本件についてみるに、前記1及び後記五1の(1)のとおり、本件株主総会において、各議案の審議、採決方法に関し、議長の提案に基づき株主提案第七号議案を会社提案第二号議案の修正案として取り扱う旨、株主提案第八号議案を会社提案第二号議案の追加選任議案として取り扱う旨の各決議と、右各議案の各取締役候補者について一括して賛否を採る旨の決議がされた後、この審議、採決方法に従って株主提案第七号議案、会社提案第二号議案、株主提案第八号議案の順に採決され、右三案がそれぞれ順次否決、可決、否決されたものであって、このような採決方法が法令又は定款に違反しているということはできない。

そうとすれば、本件において取締役選任に関する議案の採決方法は適法というべきであり、各取締役候補者のそれぞれについて各別に順次その選任に関する賛否を採らなかったことが違法であるとはいえない。」

二  控訴人の当審主張に対する判断

1  当審主張1について

被控訴人の定款二〇条二項に基づく取締役会規程八条二項は、取締役会の招集通知は書面でなし、右通知には会議の目的事項を記載すべき旨規定している。しかし、甲第一号証によれば、同規程は、その八条二項において、取締役会の招集通知をする場合には、開催日時、場所及び会議の目的事項を記載した書面をもってすべきことを要求しているけれども、他方、取締役会において右招集通知に記載されていない事項について審議又は決議することを禁じているものと解することはできない。そして、引用にかかる原判決「事実及び理由」第三の三1(一)に判示したとおり、本件取締役会において、招集通知に議題として記載されていない事項である控訴人を代表取締役社長から解任し、Bを代表取締役社長に選任する旨の本件取締役会決議をしたことが違法ということはできない。したがって、控訴人の当審主張1は採用できない。

2  当審主張2について

(一) 〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、従来から被控訴人の取締役会の招集事務は、取締役会事務担当者が、予め代表取締役である控訴人及びその他の各取締役から次回取締役会で審議ないし報告を予定する事項を聴取し、これを審議事項及び報告事項として記載した取締役会招集通知を作成し、代表取締役の了解のもとに、これを開催日の前に各取締役及び監査役に交付していたこと、その後も、代表取締役の控訴人及びその他の各取締役からの意見により審議事項及び報告事項が追加、変更、削除されることもあり、その場合は、最終的に調整された審議事項及び報告事項が記載された、取締役会招集通知と同一形式の書面が取締役会開催の直前に作成され、これが取締役会の各席に配布される慣例であったこと、実際に開催された取締役会では、右各席に配布された書面記載の審議事項及び報告事項に基づいて議事が進行されたが、右書面に記載のない事項が提案され、若しくは報告されることや、右記載された事項が提案されず、あるいは報告されずに終わることもあったこと、本件取締役会の開催前の平成八年七月二四日付で出した招集通知には審議事項として「平成八年八月一日付人事異動の件」及び「海外出張に関する稟議関連規程改訂の件」と記載されていたが、本件取締役会当日に席上配布された招集通知と同一形式の書面には、審議事項は「特になし」と記載されていたこと、本件取締役会における右審議事項及び報告事項の取扱いは、被控訴人の取締役会におけるそれまでの慣例に沿ったものであることが認められ、この認定に反する控訴人の原審の本人尋問における供述は、前掲証拠に照らしてたやすく措信することができない。

(二) 右(一)の認定事実及び引用にかかる原判決「事実及び理由」第三の三1(二)の判示事実を総合すれば、控訴人の代表取締役社長解任賛成の立場を取る取締役B、A、Cらが、本件取締役会において不意打ちで控訴人解任の議題を提出してこれを決議させるべく、虚偽の議題を記載した本件取締役会招集通知を送付して本件取締役会を開催した旨の控訴人主張事実を認めることはできない。したがって、本件取締役決議が不公正なものであって無効であるとはいえないから、控訴人の当審主張2も採用することはできない。

3  当審主張3について

(一) 商法特例法二一条の三及び参考書類規則六条によれば、株主総会に出席しない株主は議案について書面によって議決権を行使することができる旨、並びに取締役の選任に関する議案において複数の候補者が提案されているときの書面投票では、各候補者についてそれぞれ賛否の記載ができる方式を採用すべき旨定められている。

(二) 証拠(乙一ないし四)によれば、本件株主総会において、株主総会に出席せず書面によって取締役の選任に関する議決権を行使した株主があり、この場合には各取締役候補者ごとに賛否の意見を表明していること、しかるに、本件株主総会では、株主提案に基づく各候補者と会社提案に基づく各候補者とに分けたうえ、順次に各候補者を一括して投票していること、したがって、書面によって議決権を行使した株主は、各取締役候補者のそれぞれに賛否の意見を表明することができたが、株主総会に出席した株主については、会社提案及び株主提案のそれぞれの各取締役候補者について一括して賛否の意見を表明することを求められ、各取締役候補者についてそれぞれ各別に賛否の意見を表明をすることができなかったことが認められる。

(三) 右(二)の認定事実によれば、出席株主は、各取締役候補者についてそれぞれ各別に賛否の意見を表明することができなかった点において、書面によって議決権を行使した株主よりも不利益であったとも言えるけれども、他方、株主総会において直接に自らの意見を表明をする機会が与えられていること、右の投票方法における相異は、大規模会社の多数の株主に株主総会における意見表明の機会を保障しようとの見地に立脚して採用された書面による議決権行使制度に内在する技術的な制約によるものであると認められることに鑑みれば、右の投票方法における相異をもって、本件株主総会決議が株主の平等の原則に反する違法のものであると解することはできない。したがって、控訴人の当審主張3も採用することはできない。

第四結論

よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺本榮一 裁判官 下澤悦夫 内田計一)

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